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 梅雨の晴れ間に、三原由起子さんから第一歌集『ふるさとは赤』が届いた。ブックジャケットは目が覚める美しい水色。
 帯には彼女の師であろう、永田典子氏の短い文章が目を引く

  iPad片手に震度を探る人の肩越しに見るふるさとは 赤

 震災で喪ったふるさと浪江への思い、
 原発汚染への怒りと疑問などなど、歌人とミュージシャン、
 ふたつの顔を持つ作者の律動感溢れる第一歌集。
 けれん味のない直截な文体が魅力――永田典子

 跋文によれば、『ふるさとは赤』は三原さんの十六歳から三十三歳までの歌をまとめたとある。小生は一度だけ三原さんにお会いしたことがある。その時知ったのことは、三原さんは、『うた新聞』編集長の玉城入野氏の細君ということ。だがミュージシャンとは知らなかった。おそらく声量豊かなヴォーカルだろう。ロック歌手かシャンソン歌手か、それとも演歌歌手か。和歌はそもそも朗詠であるからにして、活字面で訴えるものではない。小生は若い時(そんな時もあったが)に詩の朗読会に足繁く通ったものだ。きっと三原さんの朗読によるそれらの歌を聞くとまた違った感じを受けるだろう。
 さっそく『ふるさとは赤』を繙く。みずみずしい歌がある。
 目を引くのは恋の歌群である。恋歌は記紀歌謡、『万葉集』さらに勅撰集へと詠み継がれた。『古今和歌集』では1111首の歌が収められ、恋歌では恋の成り行きを時系列に配置され、その数は360首にのぼる。その数を百分率に示すと32%になる。歌われた恋とは。『宗祇初心抄』に「恋の本意と申は、訪はれぬを恨み、別るるをしたひ、待暮にをそきをかなしみ、……」と詠むことが慣わしであったようである。それはともかく、三原さんの恋歌をみてみよう。
  
   数学の時間は君が眠るから私もいっしょに眠ってしまおう

 初恋の歌だろう。好きな人と同じく「眠る」ことを共有することにより、芽生えた恋心が増幅してゆく。が、とかくこの手の恋は成就せぬもの。つまり初恋は実らないとは、このことか。

  嫌だった短い睫毛が粉雪を受け止めるような君との出会い

 この歌はセカンド・ラブか。昔、たしかそのような歌があった気がするが、「恋も二度目なら……」ごとき、「短い睫毛」がしっかりキャッチしたのは、いうまでもなく大人の恋であるが、ただ哀しいことに、このような恋も成就はしない(反論のあるかたはご一報を)。


  むなしさを持つ同士抱き合えば答えは見えてくるかもしれない


 この歌になると、人生の機微が感じられ、しぜんと「答えは見えてくる」もの。その答えとは、もちろん読者に委ねられている。小生は恋については門外漢であるが、「かもしれない」と余韻を残すところに、読者をはぐらかす。これも恋のテクニックか。だとすれば三原さんは頗る恋に精通したテクニシャン。
 伝統的な恋歌に対し、独自の世界を惜しみなく詠む三原さん。そんな彼女の影なる部分がある。なんとも言えぬ寂寥感。
 
  三十路まで二年と少しを数えれば死期が近づいているような恐怖

 とかく二十代のころは夭折願望がある。が、ひたひたと「死期が近づ」くことに対し、「恐怖」と感じ取ったところに実感がこもり、彼女の内なる彼女が浮き彫りにされる。青春の秀歌である。

 後半は忘れもしない東日本大震災のこと。こちらはあえてコメントは控える。一言だけ申せば、歌人としての三原さんを逞しくさせた震災でもあった。さらにもう一言申せば、震災歌群から読者が何を思い、日本の未来に何を期待すべきかを考えなければなるまい。ついでにもう一言申せば、三原さんは震災歌をこれからも詠い続ける決意が伝わってくる。

  阿武隈の山並み、青田が灰色に霞む妄想 爆発ののち

  「十年後も生きる」と誓いし同窓会その二ヶ月後にふるさとは無し

  ふるさとを失いつつあるわれが今歌わなければ誰が歌うのか


 第一歌集は爽やか風となり、短歌界に新風を吹かせた。三原さんの少女から女性へと成長してゆく姿を、恋歌として歌われている。東日本大震災を契機に歌風の変化が認められ、今後の作風におおいに影響をあたえるだろう。第二歌集を心待ちにしているのは、小生だけではない。
 現代女流歌人の新たなる門出に祝福を!! 今宵の酒は祝い酒、もちろん肴は『ふるさとは赤』である。


『ふるさとは赤』
本阿弥書店2013年5月20日初版 本体1,500円(税別)

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