3月2日に蕗の薹を採ってきてさっそく味わう。
蕗味噌は定番であるが、はじめて蕗の薹を火で炙って味噌を付けて食べた。江戸時代(寛永20年刊)の料理本『料理物語』にもその作り方が載っていたので、試したのである。作り方はいたって簡単。ほろ苦さを味わうなら蕗の薹を串にさして、火に炙る。ほろ苦さが苦手の人はさっと湯通ししてから串にさして火に炙る。野趣に富んだ料理である。蕗の薹のほろ苦さは酒の肴に宜しい。いくらでも呑めてしまう。料理は秘伝であるため、室町時代では門外不出であったに違いない。だが、本書は日本で最初に刊行された料理本として名高く、さまざま料理が載っているので、拾い読みしているだけでも楽しい。例えば「薬食い」では滋養強壮とて、鹿・猪などを食べることが許される。獣料理の作り方があるのは本書だけだろう。
春の季語になっている「田楽」は豆腐に串を刺して山椒味噌を付けて火で炙って食べる。江戸時代では人気であったらしい。やがて豆腐から主役は蒟蒻に変わり、今では「おでん」として食べられている。
また『豆腐百珍』という豆腐料理のみ百種類を集めた本も人気を博した。続編も刊行された。
この本を嚆矢として単独の食材のみの料理本が多く刊行された。たとえば「大根」。大根は自己主張の薄いがゆえに料理には適した食材である。風呂敷大根もいいが、辛い大根をすり下ろし、新蕎麦の薬味として。辛い大根と蕎麦のベストマッチ。和食はヘルシーでしかもシンプルな料理方法なものが多い。西洋料理のように油をたっぷり使い、チーズやバターや香辛料を湯水のように入れ、食材が何なのかわからぬ。その点、和食はその食材の味を生かした料理であることは言うまでもない。
あと一カ月もしたら、愚生が蟄居している柿生緑地には筍が生える。採れたての筍は刺身で食べるのが宜しい。あぁ。筍料理が待ち遠しい。